2012年1月24日火曜日

TPPと健康保険制度 - 弁理士の日々

20XX年、TPP参加であなたの医療が削られる 有名無実化した国民皆保険の未来予想図
知らないと損する!医療費の裏ワザと落とし穴
【第20回】 2012年1月16日 早川幸子

このページでは、『TPPに参加すると医療に市場原理が導入され、国民皆保険が崩壊する恐れが出てくる』と警告しています。

第1に、「抗がん剤は、場合によっては健康保険がきかなくなる」
という問題が提起されています。

TPP以前(つまり現在)は、健康保険で必要な治療は誰でも差別なく受けられていたのに対し、TPPに参加した結果、健康保険の審査業務にアメリカの保険会社が参入してくるというのです。彼らは経済原理ですべてを判断するから、医師が必要な治療だと言っても高価な抗がん剤治療の使用はなかなか認めてくれません。治療実績から判断して、進行性のがんでの抗がん剤使用は保険適用されなくなります。支払いできるのは切除術に関する費用のみになるといいます。

著者の早川さんは「TPPに参加する国民皆保険が崩壊する」といいますが、実は現在でも、国民皆保険は既に内部崩壊していると私は思っています。
特に、高齢者は当然定年退職で組合健康保険から国民健康保険に移っており、高齢者の医療保険は国民健康保険から支払われます。その国民健康保険の収支が完全に崩壊しており、組合健康保険から援助を行っている状況です。

現在は、1年間の死亡者数が百万人です。これが、私たち60歳代が死亡する20年後には、1年間の死亡者数が2百万人に倍増するのです。ガンによる死亡が全体の3割を占めるとすると、ガンにかかる患者の数も2倍に増えることになります。
抗がん剤は非常に高価であることが通例でしょうから、抗がん剤の保険適用を現在と同じように認めていたら、そのことによって国民皆保険制度が崩壊してしまうでしょう。

そう考えると、「進行性のがんでの抗がん剤使用は保険適用されなくなる」ということは、国民皆保険制度を維持する上で必然の選択であるようにも思えてきます。健康保険は、国民相互の互助制度です。ガンによる死亡時期を半年程度先延ばしすることを目的に、何百万円もの保険金を互助会から捻出することが、国民全体の幸福につながっているのだろうか、という論点です。
しかし、このような論点は、議論を始めたとたんに袋だたきに遭う可能性があり、タブー視されるでしょう。そうとしたら、「TPPに参加したせいで進行性のガンに抗がん剤の保険適用が認められなくなった」というのは、「外圧を利用して制度をあるべき方向に改革する」ということで逆に有効かもしれません。

どうしても抗がん剤を保険で賄いたい、という人には、任意でガン保険に加入するという道もあります。

上記ページで早川さんは、TPP参加で医療制度が被る被害として以下の点も挙げています。
『●薬や医療機器の価格が高騰する
日本の医療費は公定価格制で、薬や医療機器の価格も国が決めている。TPPに参加すると、アメリカはこれらの規制を撤廃し、自由に価格を決められるようにすることを要求してくるため、薬や医療機器の値段が高騰する。
●営利目的の株式会社が病院経営に参入
日本の法律では営利目的の病院経営は制限されており、出資者などへの配当の支払いを禁止している。しかし、TPPによってアメリカの民間企業が病院経営に参入してくると、株主に支払う配当を確保するために、患者が受けるべき必要な医療を削ったり、売り上げを伸ばすために過剰な検査など行われる。
●混合診療が全面解禁される
国民の健康を守るために、日本では効果と安全性が認められた治療や薬しか健康保険を適用しておらず、健康保険のきく保険診療と評価の定まらない自由診療を併用する「混合診療」を禁止している。営利目的の株式会社が病院経営に参入すると、治療法や治療費を医療機関が自由に設定できるようにするために混合診療の全面解禁を要求。その結果、医療の安全性が保てなくなったり、お金持ちしか医療の進歩を享受できなくなる。

つまり、TPPに参加すると医療に市場原理が導入され、国民皆保険が崩壊する恐れが出てくるというわけだ。』

薬や医療機器の値段が、保険制度の影響で不当に低い価格に抑えられているのだとしたら、それこそ問題です。自由競争の結果として落ち着いた価格が現在の公定価格よりも上昇す るのだとしたら、その価格が妥当だというべきかもしれません。その結果として製薬会社や医療機器会社が正当な利益を得て、より良い薬が生まれることにもなるはずです。

営利か非営利かの差は、出資者に配当するか否かという点のみです。出資者に配当を許さない現在の日本の医療制度が、医療機関の儲け主義を排除しているとはとても思えません。医療法人化していると否とにかかわらず、儲け主義に走った個人病院などいくらでも見つけることができます。病院の株式会社化に抵抗するのは、医師会の既得権益保護に過ぎないと思われます。

「混合診療を全面解禁すると、医療の安全性が保てなくなったり、お金持ちしか医療の進歩を享受できなくなる」というロジックは理解できません。
私が経験しただけでも、歯の治療に保険が効かないセラミックス製のものを用いる場合、現在は混合診療もどきが効いて歯そのものの価格以外の治療費は保険適用になり、とても助かっています。「混合診療が適用されれば、お金持ち以外も高度な医療を受けることが可能になる」というイメージはできますが、その逆はとてもイメージできません。

こうして、医療制度の観点からTPPに反対する人の論を聞いてみても、「医療制度を改革してあるべき方向に変革する上で、TPPが後押ししてくれる」としか聞こえてきません。

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